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妊娠後期に入ると35~36週頃の妊婦健診で、膣入口部から肛門にかけての培養検査を行います。これはGBSという菌がいるかどうかの検査です。
GBSとは・・B群溶血性レンサ球菌という細菌です。成人内の腸管内の3人に1人に保菌が認められる珍しくない菌です。妊娠中の検査では15%~30%陽性とされています。
GBS陽性では?・・通常の成人では問題を起こすことはほぼありません。しかし、分娩時には問題になることがあります。GBSは肛門部から会陰部に定着しやすい菌です。そのため膣内から子宮内へと感染が拡がり、前期破水・絨毛膜羊膜炎(子宮内感染症)・早産等を引き起こすことがあります。さらに最も重要なことは、赤ちゃんの感染症の原因菌になることです。もちろん、3人に1人が新生児感染症を起こすわけではなく、0.1人/1000出生(1万人に1人)と頻度は低いです。しかし、もし発症すると死亡率5~10%と非常に重篤です。
GBS検査・・そのため、「産婦人科ガイドライン産科編2020」でも妊娠35~37週にGBS培養検査を行うことがすすめられています。培養検査には約1週間結果が出るまでかかるため、分娩時の産道の細菌の様子は分娩前1週間以上5週間以内に行うことが良いと思います。
GBS陽性の場合・・アメリカではGBS陽性妊婦からの新生児GBS感染発症が1.7人/1000出生(1000人に1.7人)と多く、感染予防対策を行い0.3人/1000出生(1万人に3人)に減少しました。日本でも、もともと1万人に1人と新生児感染は少ないですが、少しでも発症を減少させるためアメリカと同様の新生児感染症予防を行っています。
予防方法はペニシリン系抗菌薬の点滴投与です。アレルギーがある場合には他の抗菌薬を使用します。抗生剤は破水入院時や陣痛発来時から、分娩終了まで定時的(4時間毎)にしていきます。
予定帝王切開で破水等をしていない場合には産道感染しないため、予防投与は必要ありません。
妊婦健診でGBS陽性になる妊婦さんは15~30%ですから決して珍しくなく、陽性でも心配しなくて大丈夫です。赤ちゃんの感染予防方法は確立し、1万人に1人の新生児感染の可能性をさらに減らそうとしていますから、しっかり妊婦健診を受けて抗生剤の点滴予防をしていけば安心です。
昔、GBS陽性妊婦さんにどうしてもと言われ、陣痛もなく破水もしていない時期に抗生剤でGBS治療をしたこともあります。GBSは常在菌で腸管内に存在しているため、抗生剤の投与を終了すると一回陰性化していても結局分娩時には陽性となり、意味のない抗生剤投与になったことがありました。
施設によって多少抗生剤の投与方法は違うかもしれませんが、赤ちゃんに影響がある抗生剤を産婦人科医が用いることはありませんから、安心して予防を行ってください。
院長 橋本